夫婦の絆とキャリアを天秤に掛けることがあろうとは、数年前にはとても考えられなかったことなのですが、これも時代の移り変わりなのでしょうか、とうとうこういう相談が来るようになってしまったのですね・・・ご相談者には申し訳ないのですが、ちょっと寂しい気がします。
「キャリア」って何なんでしょうね? 「捨てる」とか「捨てない」とか・・・どうも日本では狭い意味での「出世」とか「ステータス」と同義に使われているように感じるのですが、そもそもは人の「生き様」「生涯」を指し示す言葉です。例えば、妻や夫、或いは親として懸命に生きた足跡も尊いキャリアなわけで、キャリアに貴賤はありません。
何年か前に、当時某大手電機メーカーに勤めていたAさんから転職のご相談を受けたことがあります。家族のために海外転勤の辞令を拒否して転職を決意、できれば奥さんの実家近くでの転職先を探して欲しいと言うのです。
社内随一の優秀なプロジェクトリーダーであったAさんは、そのメーカーに社運を懸けたEU市場開拓のミッションを託されたのでした。現地赴任を受諾すれば年俸も倍増、市場開拓に成功すれば取締役のポストが与えられる願ってもない(いわゆる)出世のチャンスです。ですが、看護婦を妻に持つ彼は、奥さんの仕事に懸ける情熱も、奥さんが社会的要請のある要職に就いているという事実も充分に理解していました。子供たちもまだ幼いし、姑は病気がち・・・それまで家族と過ごす時間を犠牲にして会社に尽くし、家族とのすれ違いすら痛感していた彼にとって、海外転勤を受諾することは、家族の絆を壊しかねない危機でもあったのです。
一旦は別の会社に転職したAさんですが、今では長野の山奥で家族やお姑さんと共に暮らし、自然の恵みを享受し、畑を耕しながら、小さなペンションを営んでいます。所得は1/10に減りました。でも彼は、お金では買えない、多くのかけがえのないものを手にしたようです。
この話は極端な事例かも知れませんし、「価値観の相違」で片付けられてしまうかもしれませんが、今回のご相談はあくまでもご夫婦の問題です。自分にとって一番大切なものは何か、夫婦にとって一番大切なものは何か・・・互いが互いを思い遣る気持ちを持ち、広い視野を持って、ご夫婦で良く話し合ってみて下さい。